2009-02-14

ウェリントン

 週末を利用してウェリントンに来ている。

 長々と住んだ町だから体が馴染んでいてとても過ごしやすい。 頭がよく動く。 そういう町が人生に何カ所かあって幸運だと思う。 

 旧い友達にたくさん会って、いっぱい話してお酒を飲んで、美味しいご飯を食べて、普通で普通でとても楽しい。 こういう日々がこれからも続けばいいとかって思う。 でも実際はもう大半の友達がウェリントンを去ってしまったし、来年とかになってこっちに来たらもっとダイナミックに誰もいなくなっているんだろう。 若いってそういうことだ。 みんな移動する。

 夜、バーで昔大好きだった男の子がいるのを見た。 さすが狭い町。 ありえないことがおこりうる。 絶対にここにはいないだろうっていうバーを選んだら、わざわざいたからね。 パニックになった。 一緒にいた友達は挨拶をしにいこうと言った。 でも私はそれは出来ないと断った。 相手に気がつかれていたらそりゃ挨拶した方が良かったのかもしれないけど、まだ気がつかれていないし、放っときあうのが一番だと思ったからだ。 ただバーにいる間中すごく難しい気持ちになって、うだうだして一緒にいた友達を不愉快な思いにさせた。 相手には悪かったが、でもうだうだした後にすっきりした。

 結論として思ったのは、まだ私が相手のことを大好きだと言うことと(愛していると言っても過言ではない)、だからと言ってわざわざ自分にとってダメージングなことはしなくてもいいという事だ。 挨拶して、相手の顔を見て、現状の話をして、チャラチャラした社交の会話をかわしたら、ケツにサボテンの刺が刺さるよりもうざったらしいダメージを食らうと、さすがの私でも分かった。 だったらやらんでよろしい。

 相手を見た瞬間の、嬉しさと愛情の再確認は自分を人間として好きだと思わせてくれた。 愛情を持っている人間を見たときに溢れる相手に対する温かい気持ちほど、人としての自分を安心させてくれるものはない。 「自分にはこんなに温かい感情の動きがあるのか」って自分で自分に驚く。 それを感じられたのは良かったし、そんな思いを持てる子に会えたことがあることは財産だと思う。 これは友達にも家族にも感じない温かさ。 可能性としての新しい家族への感情だ。 将来子供を産むことが出来たら素晴らしいだろうなと想像した時に、胸に沸き上がる温かさと同じ性質。 温かい。

 だからって「こんなにスペシャルなんだから、なんとかしなきゃ!!」って、ずかずかとまた何かをする必要なんてこれっぽっちもない。 やるだけやった訳だし、傷つくのは目に見えているし、相手に難しい気持ちを持たせるのもわかっている。 しつこい位に、お互いに将来性があるかないかを試した後の清々しさがそこにはある。 こんなに「すべての調査の結果、これはうまく行かないと深く納得しています。」と思っている事柄はほかには無い訳だ! これは放っておくのが一番。
 
 不思議なことに惹き付けられている時に幸せな対象は、だからって別に一緒になって幸せって訳ではないのだ。 何たる不思議。 ここが合致したら、そいつはワンダフルと思うけど、なぜかたまたま前回の人は全くそうじゃなかったし、それはもうそういうもんなのだと納得するしかない。 いやー、不思議だ。 

 たまに私の中で日本の給食メンタリティーが私に働き、無理してでも手を出したのなら最後まで片付けなくてはと思っちゃうんだけど、実際はもっとカジュアルでも問題は無いのだ。 誰にも迷惑はかからない。 イギリスの給食モデルでよろしい。

 完璧を目指すってのは、人間関係においては暴力だ。 ロールプレイングゲームじゃないんだから、完全クリアする必要は無し。 どうせまた誰かに似たタイプの愛情を持ったら、自分でも呆れる位見事に忘れる事柄なのだ。 そういうもんなのだ。 なんだか分からんが、世界ってのはそういうふうに風通しのいい場所だし、人間関係の力学ってのは意外なほど肩の力が抜けた素敵なものなのだ。 ここで自分に唯一できる、こういう事柄に対する治癒はただ肩の力を抜いて普通に毎日を過ごすことだろう。

 そういう訳で、ヴァレンタインの夜のバーで私は遠くに座っている相手を見て「うん、放っておこう!」と思った。 彼とのことがうまく行かなかったせいで「せめてこれからのことは上手くコントロールしよう」っていう強迫観念みたいなのから、将来のこともノイローゼーみたいに考え抜いたけど、それもなるようになるって発想でいいのではないだろうかと思えてきた。(そういう面ではこれまで全くプラン無しに生きてきたので、今回の失恋により結果的にいろいろプラン立てが出来たので良かった。) どうとでもなれだし、時間は突き進んでいくから、本当に驚くほどどうとでもなるのだろう。 

 なんか結構にナイスな発見だった。 

 さよなら! さよなら! まだまだ愛おしい男の子。 でも悲しくないのは、間違えなくこれから彼よりも甘くて、蜜みたいな人と、いつか私は良い時間を過ごすから。 なぜならばそういうもんだから。 だって私がそうだから。

 まったくもって独特で、相変わらずミニマルで味わい深い、己の道を突き進んでくれ。 変人には変人の輝きがある。 そこまで変人なんだからもう大丈夫。 変人の軌道にちゃんと載れてるから、あとはやるだけ! これからも己の道を突き進み、ある程度の女の人と幸せに理解し合いながら過ごしてくれる事を祈る。 頑張れ! やれば出来る! 

 ただ私と何かの要素がちょっとでも重なる人とはつきあわないでくれ、悲しくなっちゃうからと、ケチンボな事を思った。 「うわっ! こんな女の子がこの世にいたのか!」って私もクラっときちゃう子じゃなきゃ、絶対に駄目! 一生一人ってのは絶対に駄目! 

 お願いだから、とっとと素敵で人格が達者で成熟している女の人と一緒になって、安定した幸せな生活を送ってくれよと祈っている。 そしてもう一回リピートするけど、私ほどは面白くなくて、私ほどは振り回さない、そういう面ではつまんない人とって事で、神様、お願いします。

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