2009-01-30

工房見学

 何回も何回も生産ラインの現場に行かさせられる。 全ての行程チェック。 ふとした瞬間に「これは工業デザイナーであり続ける限り、永遠と続く作業なんだよな…。」と思う。 キャリアが終わるまで、いったいどれだけの工房、工場に行くことになるのだろう。 

 私の仕事がいまいちなんなのかわかっていない現場の人たちに、「いや、みてますけど緊張しないでください! 監視員とかじゃないので。」と言い訳しながら観察。 「工業デザイナーって何する人なの?」と言われ、「新しいプロダクトをデザインすることと、勿論あなたたちの作業工程をもっとやりがいのあるプロセスに変えていくことです。 全部ひっくるめてデザインします。」と返す。 そうすると色々教えてくれる。 謎のセールスマン状態だ。 

 現代社会の宿命なのだと思うんだけど、アナログな部分とデジタルな部分の差が激しいのに両立しちゃっていて、頭がこんがらがる。 

 物を組み立てている現場って言うのは、本当に今でも意外なほど人間中心だったりする。 確かに使っている工具はハイテクでも、オペーレートする側の知恵だったり、慣れが大きな効果の差を出す。 

 だから見ていて納得する面も沢山ある。 特にうちは工場というよりも工房で、職人仕事が多いから余計にそうだ。 だから結構「ここはこうした方が良いのでは?」ってのを考えるのが難しい。 「この呪術のようなプロセスを工業化しちゃったら、魔法がとけちゃったりしないだろうか…。実はここはカボチャで出来てましたとかってないよね?」って思っちゃうのよね…。 あーーー、こんなんだったら、小学校とか中学校とか真面目に行って、社会科見学とか参加しておくんだった。 今更ながら、よその工場に行きたくて仕方ない。 お〜い! トヨタの人〜! 私に色々教えてくれませんか?

 でもクライアントの90%が海外な我が社を支えているもう一方の側面は、「そこまでしかすか!!」ってぐらいに洗練されたITに支えられていて、そこの研究室に行くと、もう何がなんだか分からない。 

 パソコンの前に一時間座って、「これがこうでこうで、こうなってこうなると、あそこにいって、そこであれがおこって、これがおこって、そうするとあれで、だからこうなります」的な事を聞きながら、頭の中では「何語?!」の嵐。 

 しかも説明してくれる人はITにかけて職人気質なマニアックな人達で、なんだか説明が長い上に詳細すぎて、理解の範疇を軽く超えた、人工言語で語りかけてくるよ、おい、こりゃ困った。 お〜い! 四次元パトロール! 取り締まってくれえ! もー分からん。 何がなんだか分からん! 

 思わず、「簡単に言うと、こういう事ですよね?」と言い直して、多分あっているんだけど、相手に白けられる。 プログラム一つ一つの影には、それこそ工場レベルの作業工程と、時間と、情熱と、熱意が隠れているのだけど、いかんせん四角い画面の中でチカチカと完成品だけ現れるとそこらへんが分かりにくい。 相手もそれが分かっているから、そこらへん分かってもらいたくて、永遠と色々言ってくれるんだろう。 気持ちは分かる。 でも、私の気持ちも分かってくれ。 

 昨日、今日とひたすら現場の観察が仕事で非常にぐったりした。 長い。 物が出来るまでのプロセスは、長い。 しかもアスペクトが多すぎる。 勿論、この経験は宝物みたいなもので、こんなに色々見れてよかったとも思うんだけど、それにしても長い。

 社長さんに「全部が分からなくていい。 職人になる必要も技術者になる必要も無い。 ただ全体を掴んでくれ。」と言われたんだけど、それでも手に余る。 全体像を掴むのは簡単だけど、でも初めて知る事ばかりだから、あまり発展的な批評が出来ない。 そういう時は、あえて目的や目標に合わせた考え方をやめて、ただひたすら観察するのが一番良いのだろうと思い、無心に脳内へスキャンし続けた。 でも結構自分がやっている事が正しいのかが分からなくて不安だ。 ここで「ここはこうして、こうやって、こうすれば、ほら、結果量が100倍になった!」とかって出来たら、一瞬でヒーローなんだろうけどねぇ…。

 それで、経営陣と戦略会議とか出て、また全く違うアスペクトで物を考える人達に触れて、ふとした瞬間に、本当に人は与えられた仕事で考え方を変えるのだなと急に悟りみたいな境地になってしまったりする。 うん、要するに一瞬集中力が飛んだって事なんだけど。 うへー、結構疲れる。

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