2007-12-13

太陽


 ソフーロフの太陽を見た。

 私にとってソクーロフの映画がとても大切で、観賞後には色々な意味で求めている制作への道を示される気分にさせられる。 彼の作品を見ると熱い思いがみなぎる。 

 映画のおもしろさを教えてくれた映画監督が、私の母国語で、祖国に取っての強烈なタブーを映画化してくれるってのは、なんとも凄いことだ。 大興奮。 私、ラッキー!

 それにしても素晴らしい映画だった。 歴史的な事や、政治的な面は私は知識が無いので、評価の下しようが無いし、私はこれを歴史映画としては見ない、ってか見れない。 ただ、扱いにくいトピックを、これまでに取り扱われなかったような視点で挑戦するという事の素晴らしさを教えてもらったさ。 とても大切な事だ。 


そしてそれを含めて、
カメラがある、
監督がいる、
役者が演技をする、
音がなる、
映像となる、
時間が流れる…、
そういう一連のプロセス、
"映画"とよばれるものとして、ただ素晴らしいと思う。

何も「絵画の平面性」を主張するかのごとく「映画の映画たる質」を重視している訳じゃない。
大前提としての質をクリアして、なおかつ新しい物が表現されている映画を見てみたいと思う。
要するに、私は多くの人がそうなようにただいい映画が見たいのだ。 
そしてそれは私の場合ソクーロフの映画なのね。

映画には役者が収まるべき場所があると思う。
音楽が流れるべき瞬間がある。
シーンが変わるべき位置が画面上の構図に訪れる、
そういう基本的で当たり前の作法をここまで尊重して、
丁寧に適切に作られている映画はない。 
そしてそのように作られている映画の鑑賞から得る体験は、
いつでも私の想像の幅を超えて、想像力の切実な美しさを教えてくれるのだ。

イベントをただ見せる映画がある。
そういう映画においては、Aというハプニングと次のハプニングBの間に流れる時間がただのまつなぎであったりする。 でも実際の時間はそんな風には流れないし、それが時間の残酷さとリアリティーだと思う。 
いかに楽しい時間が流れていて、月日が矢のように過ぎようとも、私たちは一瞬一種の連続を通過しているのだ。 

彼の映画を見ていると、全ての時間が平等の緊張感で構築されている事が分かる。 
「見せ場」だけを力んで取っている映画じゃない。 全ての瞬間に同じ濃度がある。 
そんな、公平な作品を作る為にはとんでもない体力がいるだと思う。 


すごいなと思う文章にも通じるんだけど、そういう淡々とした冷静なコントロールが、本当のクライマックスを作る。 あくまでもこれは表現であると思える事が素晴らしい。 それって、とっても大切な事だともう。 

ああ、愛すべきじゃないか。 



それにしても昭和天皇役のイッセー尾形すごい。 
日本にこんなにすごい役者がいたのかと驚いた。 
トニー滝谷でも、その力量に驚いたけど、素晴らしい表現者がいる事の喜びを彼を見ていると思うよ。

そして素材としてこれ以上に有意義に彼女は使われないんだろうなと思わさせてくれる、
ズバリな数分感を作り上げた桃井かおりの配置もすごい。

ソクーロフと同じレベルの物が作れたらと思わず願ってしまう。




昨日はウェリントンから友達が来たのであった。
夢の中の人に会うような気分だ。 

一緒にいる時は振る舞いがウェリントンにいる時の私の振る舞いに少しなる。 
東京を背景にして自分の振る舞いがちょっと変わると、「こんな自分もそういえばいるんだよな」と新鮮な気分になる。 反省もする。 別にこれで良いんじゃないかと思う面もある。

ふとした時に自分がとる動作やリアクションが「気弱な人」な時があり、自分がウェリントンにいる時に日本にいる時とは全然違うんだなと驚く。 また友達と話す内容が「気が強い人」な発言だったりもして、それにも驚く。 面白いね。 友達には日本に来てもらって本当に良かった。

彼と別れた後に日本の大学の時の相棒に会う。
「コーヒーをのもう」と言って彼女に会う。

私は相棒とルーティーンで会う。 好きだから、楽しいから、会えると嬉しいから、一緒にいたいから、ルーティーンとして会う。 会って、彼女の存在を確認したい。 

すっごい大切な人。 ウェリントンでも大切な事は沢山あるし、大切な人達がいる分、新宿のわけのわからんカフェで会う友達への愛情も深まる。 

二人でソクーロフ賛辞をして、いっぱい面白い話しをして、聞くだけでも気恥ずかしいような「良い芸術とは?」なんて話して、やっと落ち着いた。 そして、とても元気になっていた。


神経過敏になったり、シュウカツをしたり、将来を考えたり、過去を思ったり、東京を歩いていたり、ウェリントンに属する人と山手線に乗っていたり、昔からの友達と一緒に過ごす今日を喜んだり、来年を思って戦々恐々としたり、全ては漠然としている、 でも時間は過ぎていく。 こういう感じを、こういう混乱している時に徹底的に感じる、時間の無常な力強さをソクーロフは映画に出来るんだよなあと感動する。 とても神聖な事だと思う。

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