2011-01-23

貴公子

わがままで、贅沢で、自己中心的で、自己顕示欲と表現欲に溢れた友人がいる。

彼と接していると、「ああ、この人はなんたる貴公子なんだろう」としみじみ思う。

若干愛おしく、若干めんどくさい人だ。

お育ちがとても良いので、鞄は持ってくれるし、私が泣くと、自分も泣きそうな顔をして一生懸命顔を拭いてくれる。 遊んでほしいときはいつも私の背後にきて、肩をもんだり、背中をさすったりして「机から離れたら、もっとバキバキに背中もんだあげるよ!」と無邪気に言う。 女の子に優しくしたり、女の子の体を触るのがとても好きだし、それをすごく上手にやる人なのだ。 エロくなく、ただ心地よい、友人への触り方を知っている。

でも同時に小さい時から周囲のアテンションの全てをかっさらって生きて来たので、こっちにくれる優しさよりも、俄然多い優しさをこっちから期待するし、必要とする。 愛情とアテンションのメンテナンス費がとてもかかる人なのだ。 めんどくさい!!

彼は旅行中や、実家があるタイ王国にいる間、私にいっさい連絡を取ってこない。 曰く「僕はタイに愛されているから。 でもNZからは愛されてないんだもん」。

そんな事を思うなら、是非己を振り返って、NZにも愛されるような働きかけをするべきなんじゃないかと淡い期待をしてしまう庶民な私。 勿論、愛は当然与えられるべきであり、働きかけるものではないと思ってらっしゃる高貴な彼にはそんな事は通じない。 

なので退屈になったり愛が必要になると私に電話をしてくる。 

結果、NZに着いたその日から、じゃんじゃん電話やらメールやらをしてくる。 「寂しい、退屈。 余はアテンションを所望する!」ってさ。 そして終止自分の話しをする。 私から面白い話しがあるなんて期待も想像もしていないし、自分の事で心中溢れかえっちゃってるから仕方がない。 私も別に一日に何個も報告するようなイベントは人生におこらないし、彼よりかは精神が安定しているので、伝えるべきドラマもない。 なので彼の愚痴やら野心やら妄想やら願望やらを聞く事になる。 ただ、聞く。 そして誉める。 「えらいね、貴公子! 言うことがそんなにあるなんてえらいよ!」って。

彼は先日、「そろそろアンナはかえってくるべきだ」と思い私の携帯にテキストメッセージを送った。 「お前様、そろそろ戻って来ているんだろうな?」と。

まだ日本にいるので、すぐにはそのテキストは届かなかった。 私から十秒以内に返事がなかった事に業を煮やした彼は、私に電話をしてきた。 「君はどこにいるのだっっ!」と。

「いっぱい話す事があるのに! どこにいるの! 早く帰って来て!」と言われながら、はいはいとのらりくらり適当な返事をしていたら、彼からのテキストメッセージがやっと携帯に届いた。

「あ、今テキストが海を越えて来たよ。」と言ったら、すごく甘くて優しい声で「ああ、僕がテキストならなって思うよ。」と返された。 「早く会いたいもん」ってさ。

あはは、この無邪気な可愛さがあるから、まだつきあっていけるんだなと愛おしい気持ちになった。 彼の貴公子っぷりには腹もたつけど、ストレートな愛情表現にはいつも温かい気持ちにさせられる。

勿論そう思った直後から、彼の「俺の猛々しくも神々しい願望と、それを達成するためへの栄光に包まれた偉大なる予定表」に関するプレゼンが始めるので、私は「庶民視点からの、ルサンチマンも混ざった乾いた突っ込み」をのらりくらりと返す、いつもの堂々巡りが始まるんだけどさ。

そして最後にちょっと「この子どっかに引っ越すつもりなのかな?」っていう雰囲気をにおわせた。 そして「でもまだアンナから去ってかないよ、安心して。」と気を使われた。 あはは、ちょっとは去ってくれて良いよと思いながら、ただ笑っていたら、「うん、もしかしたら永遠にアンナを置いていかないかも、去らないかも!」と愛に溢れた発言を恩寵するはめになった。 いやいやいやいやいやいや、ちょっとぐらいは去ってくれて全然大丈夫だから気を使わないで!と内心思いつつ、でもそれを言ったら、一週間は、ぐちぐちぐちぐちいかに自分が傷ついたかを言われると思い、「ありがとう、うれしいよ。 愛しているよ。」と言って、ぶちっと電話を切った次第である。

貴公子と友達だと、こっちは老けるなと最近よく思う。 私は結構彼のバアヤだ。 世の中の長女や、親御さん、そしてめんどくさい部下のいる上司達、そんなみんなに優しくしたいと最近は特に思います。

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