2008-08-10

オリンピックとか花火とか

 大学の友達の家で、十人ぐらいで集まってオリンピックの開会式を見た。 みんなで徹夜。 デザイン学生だからみんな徹夜には慣れているのさ。


 一緒に開会式を見た子たちの間で、漢字が読めるのも中国の歴史をワイルドスワン以外からも知っている人は私だけだった。 隣国出身と言う事もあり中国に関しては誰よりも愛憎入りじ混じった人でいたつもりだ。(でも、どの国の人でも勝手にそう思っているだろう。 中国ってのはそういう意味で奇妙な魅力を持っている。) 


 私も含め、みんなで"point of no return"を見た的な興奮を持った。 これ以上intenseなセレモニーは多分五輪上ないし、他のどの国にも作れなかっただろう。 中国だから出来る事を、やり通すだけで、ここまで印象を残せるのかとみんなで感心し、中国の存在感が一晩でこうも変わるのかってのに、みんなで驚いた。 


 一晩でmade in chinaのイメージが「大量生産の世界最悪の質」から「文化」に変わる訳だから、すごい。 西側の大抵の人達は、紙、印刷、火薬、コンパスが中国の発明だと知らないのだから、何も知らない所に強烈な印象を落とすっていう方法は賢いなと思った。 世界中の人達が、中国の文明に関して全く何も知らないという事を逆手に取って上手にイメージを作ったと思う。 


 こうやって歴史とか、大衆のイメージとかを、改めて舵取りし直すのかと、デザイン学生たち全員であっけにとられた。 何となく世界が持っている漠然とした中国へのイメージに対して、びしっと自分が相手にこう思ってほしいと願っている方向に向けて舵取りが出来れば、ブランディングとしては大成功だ。 


 そして発展途上である、成長中であるというメッセージ性も、今の中国バッシングへの良い返答だったと思う。 今はどうだかわからないけど、これからはどんどん良くなって行くからって言われたら、「協力します」ぐらいしか返す言葉が無い。


 ちょっと違いがあるとすれば周りはただ興奮していたけど、私は見ながら心底焦っていたって事だ。 ここまで未来と将来に対する高らかな喜びを歌い上げれちゃう時点で、勝敗分かれた感じがする。 ここまで将来に対する爆発的なエネルギーを抱えている、そしてそれに対して心から歓んでいる人達が他にいるのか。 日本の首相がちらちらとうつっていたけど、本当に、心から焦って日本に帰ってきてほしいと思った。 拗ねたり、ひがんだり、馬鹿にしたりしている場合じゃない。 見下す為の努力は十分に行った訳で、そしてそれがあまり有効じゃないのも明らかで、もっと健康的に、刺激を受けて、焦って、活性化しなきゃいけないんじゃないか。 相手の迫力や気力に上手く乗ずる方法を考えたら面白いことになると思う。 ってか、それ以外に日本の繁栄とか平和の維持って難しいんじゃないのかなあ。 あえて言う事じゃないかもしれないけど、日本人選手団はわざわざ日本と中国の旗を振りながら会場入りしたのに、全然拍手されてなかったから、多分、人気無い。 もっと魅力を振りまかなきゃ駄目だ。 日本の魅力を示す為の舵取りが必要だ。 


 それにしても芸術監督の一人が中国の現代美術作家、蔡國強な時点でずるい。 すっごい爆発をしちゃうにきまってるじゃないか。 それにずっと反政府的な活動を行ってきた彼を使ったのにおどろいた。 それにもう一人の芸術監督が張芸謀ってのもずるい。 彼はマスゲームからある一定の恐怖レベルを取り抜き、面白い演出に変える事が出来る能力は世界的に認められているし、今回もある程度成功していたと思う。 大量の人間に同じ動きをさせた時点で、恐怖というメッセージ以外を伝えるのは至難の技だ。 私は中国の隣の国で育って、中国に関しては二千年のネガティブキャンペーン下で洗脳されて育った子だから、張芸謀の能力を理解できてもやっぱり、大量の人間が同じ動きをするのを見ると嫌な気分になるけど、でもやれるうちで一番の事をこの人達がやったのは分かったし、感心した。 蔡國強と張芸謀っていう組み合わせで、既に様々なレイヤーをカバーできるから、すごいよな。 (日本でだったら村上隆と北野武みたいな感じなのかな。 結構面白いかも。 様々なレイヤーをカバーしないという意味ではアウトスタンディングな結果になりそう。) 


 とりあえずこの開会式は、デザインとか、イベントとかが出来る殆どの事をものすごい底力でやった、記念碑的な数時間だったと思う。 すっごい優等生の作品で驚いた。 地道に頭がいい人達が裏に沢山いるんだろう。 優等生が百人集まって爆発したらこうなったって感じで、スケール感もあるし、説得力もあった。 デザイン的にすごかったと思う。 大衆に魅力を訴えるってのに関しての能力が高かった。 大勢の人達に対するアピールの仕方を知っているのだろう。 そしてどこをどうスライスしても中国だったのもすごい。 中国に対してワクワクした。


 
 日本で就職活動(というか企業と学生の質疑応答みたいなイベント)に行った時に、日本の学生が中国をただの消費者として見ているのにゲロっと来た事を思い出した。 おもちゃ会社のタカラへの質問で、「中国市場に対してどう攻めますか? 戦略は?」と聞いた学生にも、五分前にはおもちゃを通じて世界平和とかってほざいていたわりには戦争のメタファーを使いまくって中国市場攻略法を答えたタカラの代表にも、この人達には恥とか自意識とかってのは無いのかと、クラクラ思った。 この程度の国際感覚がコンシャスな学生ってのを示すのに適切なのかもしれないし、この程度の社会責任がおもちゃ会社にとってのコンシャスネスなんだろう。 だとしたら、すっごい小さいし、つまんない。 なんかそういうつまんなさを思い出して、ちょっとまた焦った。 

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