2008-08-03

映画祭終了



 二週間強続くウェリントンの映画祭が終了した。 毎年世界中の映画が130本ぐらい一気に上映される心躍るイベントだ。 強者は一日に三本とか平気で見る。 私は大学もあるし、週末に数本っていうペースだったんだけどそれでも十分に楽しんだ。 次は一週間の建築映画祭(なんともマイナーなお祭りだ)と、二週間行われるジャズフェスで、冬を乗り切るぞ。






 お祭り最後の締めとして、ミッシェル・ゴンドリーのBe kind rewindを見てきた。 ビデオ屋さんで働く馬鹿二人が主役の心温まる映画だった。 愚かな行動の結果、店中のビデオの中身が消去されてしまい、苦肉の果てに全てのビデオを作り直して行く話。 そして言い訳として「これ、スウェーデンからの逆輸入なんだ」と客に嘘をつき、結果「スウェーデン映画」が地元で大流行。

これが、本物のトレーラー。



これがスウェーデン版。




この監督の映画は、あまりにもラブリーでポップに洗練されすぎていていつも、自分の中の土臭い部分が満ち足りず見終わった後に白ける。 面白いけど、面白くない。 でもアウトスタンディングな監督。 町山さんのサイトに詳しい事がのってるから、もし興味があれば読んでみて。 絶対におすすめの映画。 個人的には特に好きじゃないけど、ある種の質の高さは尊敬できる。 






今回見た映画の中で一番良かったのは、マジッド・マジディ監督のThe song of sparrows.  イランの田舎のおっちゃんが災難に巻き込まれながらも、淡々と温かく家族と日常を重ねて行く様子を、美しく丁寧に描写している映画。 本当に良かった。 快作。 制約は想像力で乗り越える事が出来るのかもしれない。 淡々と悠久とした美しさの底力を感じた。 小津級。 生き生きとしたリズムが映画に満ちていた。 






 そして、もう一本! 日本映画を代表して、ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序がいらっしゃったので見てきた。 今回日本から来ていた映画は、エヴァと、天然コケッコウ、それでもボクはやってないとかだった。 小粒。 (それでもボクはやってないを見た友人は本気で日本の法制度を心配して帰ってきた。)

 ヱヴァはintenseだった。ものすごい力を入れて作っている事が伝わってくる映画だった。 闇雲に本気。 このまま、最後まで突っ切って下さいと思いつつも、こんなテンションでずっとやれるのかと不安にもなる。 

 これだけ散らばった世界観を一本の物語に練り上げるのは大変だろう。 ただ今回は終わりを見定めて作っている感じがあり、若干内容が成熟していた。 

 ペダンティックで、混乱していて、仕上がっていないというのが、元々の作品のクールネスだったけど、今回は「まっすぐ」とか「何回でも立ち向かう」とか、「人と向かい合う」とかっていう元々は否定していた要素を作品の要にしている。 村上春樹かよ!ってぐらいのディタッチメントからコミットメントへの流れがある。 ねじ巻き鳥クロニクルの二巻の最後のスイミングプールでの部分(なぜか英語版では削られている。 一番重要な所なのに)的な事がエヴァの制作グループにもあったんだろう。 

 前回までの失敗要素を真っ正面から攻略してバランスアップを計ろうとしているその姿がいじらしい。 
いじらしいけど、ロボット映画で、地球の生き物全ての命を背負った人達が自己啓発的な物事のみに興味を持っているってのはそもそもどうよ。 もっと違う面でバランスとれなかったのかね。 前回物語りが破綻した理由は決して登場人物たちの精神が弱かったからとかじゃなくて、ただ物語に設計が少なかったからじゃないかと私は思うぞ。 「登場人物の精神が弱かったから駄目でした」って感じで修正を入れて行くって、面白い作業方法だけど、そもそもその精神論に問題があるから物語が破綻しちゃうんじゃないの? 気持ちは分かるけど意味は分からん。

 あと精神と言えば、登場人物全員の精神構造がすっごい似ている。 通常の感覚ではこの手のタイプの人達に一番渡したくないタイプの仕事をやってる。 登場人物全員が村上春樹の小説の「僕」をもうちょっとエキセントリックにした感じの人達で、なおかつそんな人達の中で地球の運命と自分の運命全部 を背負いながらやってかなきゃいけない時点でシンジ君はカフカ君よりついてない。 カフカ君は結構まわりに恵まれていた。 少なくとも周りからのアクショ ンがあった。 それに比べてシンジ君…。 頑張れシンジ!  

 世界は、もうちょっと自分自身が解決している人に担ってもらいたい。 それともこれって戦時下とか、非常事態で常に育った人達のメンタリティーをリアルに表現しているのか? だとしたら芸が細かい。 どこまでが意図されているのかが分からない感じが、多分この物語の魅力なのだろうなと思った。 

 それにしても、この監督や制作グループ全員の成長の仕方を視聴者にひたすら示しながら、改善していこうとしている十年がかりのプロジェクトには、まさに碇シンジ的な感じがあり、一種のまとまりがある。 この変わった制作方法を、視聴者もある意味納得し、一大プロジェクトとしてインテンスに拳を握りながら見つめている状態から、なんだかのブレイクスルーが生まれてくれると良いなと思う。 

 物語全部を解決して、「これがしたかったのかい!」っていう解脱状態な喜びをくれとは言わない。 ただ、村上隆がlittle boyの中の「終わらない夏休み」で書いていたように、「話しを終わらす事が出来ない」っていう日本の制作物の特徴から脱せられたらそれだけで凄いことだと思うので、とりあえず、話しの中心的な部分を終わらせる事を期待する。 頑張れ、エヴァの制作チーム。 この作り手と観客の奇妙な一体感が、エヴァなんだろう。 

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