2008-03-18

限りなく贅沢な男

 今、私は限りなく贅沢な男と暮している。 元々友達で、私が日本に帰っている間に私の部屋に住み着き、そのまま家の開いた部屋に移り、今は立派な同居人になっている。 毎度の事なんだけど、とても変わった人だ。 多分、世の中で出来る贅沢のうちで上位に入るだろう「青春の無駄遣い」を堂々とやっている。 

 建築科を中退し、哲学科も中退し、今は高級フレンチレストランでウェイトレスをしながら、アントワープに留学しようとしている。 今はファッションデザイナーになりたいんだって。 でも傍目から見ると全然努力していない。 「一応頑張っているんです」っていう言い訳を全くする気のないその贅沢さ。 私が夜中に彼の横で課題をやっていても、「僕は絶対に同情とかしないからまず期待しないでね」とキュウリをかじりながら言ってきたりする。 何たる事だ。 そして、真夜中に居間でジョイ ディヴィジョンとかWilliam Basinskiとかを大音量でとても良いスピーカーからガンガンならしている。 お兄ちゃん、君は一体何者なんだい? 音楽の趣味が妙に素晴らしくて、ギャングスタを流そうとも奇妙に空間を美しくする。 

 相変わらず私が大学から家に帰ると深夜を超えている事が多いんだけど、その度に手作りのピザやらとカクテルを共に何となく私を待っていて、二人でベランダに出て呑む。(昨日まではジンがあったんだけど、どうやら今日からはウィスキーのようだ。 辛いジンジャエールと共に頂く。) その間私は彼が音楽にあわせて踊っているのを見ていたり、「これのどこがどうすごいか!」ってのの永遠と続くスピーチを聞いている。 静かな声でうっとりと話すから結構のみこまれる。 たまにベッドの上にアントワープ系のファッションデザイナーの耽美な本を置いておいてくれる。 ランボーとか読んでくれる。 私が落ち込んでいると着物を着て家で待っていてくれる。 で、冗談が完全に子供で、三歳児みたいな事を言う。 お兄ちゃん! どこの世紀から来たの?! 

 一歳年上の私からするとまさに「可愛い奴め」目線であり、「この子、こんなに我が道行っちゃってて大丈夫なのかな」って心配にすらなる。 人ごとだから面白がっていられるし、とても可愛いと思っていられるけど、人ごとじゃなくなったら完全にヒヤヒヤもんな人だ。 友達も偏っているし少ないし、デューラーになりたいとか言い出すし、「可愛い」っていうフィルターだけが私の中の彼を支えていると言っても過言ではない。 「可愛い、可愛い、愛らしい、いじらしい、そんな感じの男だ」と言うのが我が家での常識になっている。 

 そんな彼が仕事が休みの時に大学に来たから、一緒に昼ご飯を食べた。 私のクラスメイトの女の子二人を交えて安いタイ料理屋に行った。 そうしたら彼がかっこよかった。 なんかきちんとした普通の人で、ちょっとかっこいい系の男の子に変身していた。 家でロマンティックな音楽を聞いて、乳首丸出しで踊りまくって、ちょっとでも目を離すと拗ねて、カクテルを作って待っている、あの可愛いけどお前大丈夫かっていう男じゃなかった。 クラスメイトはめろめろになっていた。 人間ってすごい。 変身するのね。 結構な驚きで、お姉さんは目を見張りました。 こうやって若い女性はだまされるのかと失礼ながらに思った。 家の中と外では男性は全く全く全く違う。 若い人よ、だまされるなかれ! 家の中の男性なんて可愛いだけで、甘やかされたくて、アテンションが欲しくて、そして何よりも愛情がただただ欲しい子犬のようなだけなのに、外に出ると、ワイルドぶるからね。 なんてこった。 人って本当に側面が多い。 うっとりだ。



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